以上、ビールのサンプリングの話からバンコクでの展示会まで、長々とお話してきましたが、これが空間メディアが大事にすべき三つ目の性能「 “触発”を通して“発見”を促す」ということです。
バンコクではいろいろと現地の取材も受けたのですが、ぼくは一貫してこう言いました。
「我々は日本のデザインを勉強してくれと言いに来たわけではない。ここは説教の場でもなければ、学習の場でもない。我々のモチベーションはタイの人たちとの対話にある。タイの若者がこの展示に反応し、応答し、なにかを発見し、行動のきっかけにしてくれることこそが我々の願いだ。教育≠ナはなく触発≠キるためにこの空間をつくった」
ホワイエにサイン帳が置いてあったのですが、そこにはたくさんの感想が残されていました。たとえば、
「本当にクールなイベントだった。創造的な感覚を喚起してくれるこのような展示会を、これからももっと推進すべきだと思う。これはすごい!」
「演出のし方にとても感動した。もっと知りたいという意欲をかき立ててくれた。見れば見るほど面白くなって、新しい発想が湧いてきて、大好き!」
「日本は昔から独自の文化と歴史をもち、それを発展させて今日の日本に成長した。タイ人も歴史と文化をもっている。それを活かして革命的なものをつくるべきだと思った」
空間は“背中を押す”メディアです。でも、単に「言いたいことを伝える」だけではなかなかそうはなりません。こどもにサッカーを教える話を思い出してください。
サッカーは他人事じゃない。サッカーは君のもの。これを身体感覚で掴ませる。
そのためには好奇心を喚起する工夫が必要だし、自分で掴んだと実感できる構造が要る。文脈を「言葉」ではなく「空間」で語らなければならないし、構造を「論理」ではなく「体験」で伝えることが大切です。
一方的なプレゼンテーションを聞かされているだけ、と感じたら「知っているカゴ」から外には出してくれませんからね。