では、どうすればビールの試飲のような展示がつくれるのか。ぼくは三つのことを考えました。
第一に、情報をできるだけ生々しく伝えること。詳細な情報を正確に伝えることより、生々しい情報にダイレクトに触れたという実感を大切にする。能書きよりシズル、です。
第二に、情報を自ら掴み取る「探索の場」にすること。テレビのように一から十まで与えられるのではなく、自分でいわば「編集」しながら体験していくような構造をつくる。
第三に、情報を重層させて連想を喚起すること。探索しているときに、カテゴリーの異なる情報を同時に重ねて見せることで、観客自身がどんどん連想を広げていけるような空間をつくる。
この三つの条件を満たすような情報環境をデザインしようと考えたわけです。
これは観客を最初に迎えるゾーン。日本を代表するトップデザイナーが等身大で登場し、自身のデザイン理念を熱く語りかけています。
あえて日本語のままにしました。吹き替えたら臨場感が損なわれるからです。彼らの表情と息遣いをヴィヴィッドに伝えることを最優先にしました。このゾーンに立つと、情熱的に語る五人の声が一斉にシャワーのように降ってきます。
なぜいきなりデザイナーのメッセージからはじめるのか。なぜ等身大なのか。なぜ日本語のままなのか。
実は事前にバンコクに調査に行ったとき、話を聞いたデザイン学生たちが一人として日本人デザイナーを知らなかったのです。これには心底驚きました。モノを見せるのも大事だけれど、まずは顔をさらす≠アとからはじめようと思ったわけです。
5人はこれからのデザイン界を背負っていく世代です。念頭に置いていたタイの若者たちから見たときに、大御所では存在があまりに遠いし、実績のない若手では説得力がない。「憧れのアニキ」になるちょうどいい距離感の世代にお願いしました。すべてはタイの若者を触発するためです。できる限り生々しく伝える。それだけを考えてつくりました。