このイベントのクライアントは日泰両国の政府機関です。だから、プロジェクトの目的は両国の国益に貢献すること。構想時点でふたつのミッションを設定していました。
ひとつは、当然ながら「日本のモノづくりの文化に対する理解と共感を育むこと」。日本企業の生産拠点が集積するタイにおいては、単に日泰友好といったレベルを越えて、これはまさしく日本の国益に直結します。
しかし、だからといって「日本製品がいかに優れているか」を大声張り上げてアピールしても得るものはありません。日本が自慢しに来たと思われて共感が得られるわけがないし、そもそもそんなことをしたらカッコ悪い(笑)。いまの日本の立場を考えれば、なすべきことは啓蒙ではなく触発だと思いました。演説するよりその方が国益になる。
そしてもうひとつは、「タイのモノづくりの文化に彼ら自身が思いを馳せる跳躍台になること」。日本の方法に触れることでタイ人を刺激したい。ストレートには口にしなかったけれど、それがタイ側の最大のモチベーションであることは明らかでした。彼らの最大の課題は自国の産業デザイン振興であり、その出発点はタイ・デザインについてタイ人自身が考えはじめることだからです。
日本のデザインを「見た」「知った」という状態から、自分との関係の中で「考える」ステージに引き上げる。「あっ、これはオレ自身の問題なんだ」と気がついて、自分にとっての意味を考えはじめる。展示空間がそのスイッチ≠ノなる。
原理はまさしくビールのサンプリングと一緒です。