仮に、そのメッセージなるものが「日本人はシュークリームが好きだ」というものだったとしましょう(笑)。
彼は、それを観客に叩き込むために、展示のなかで繰り返し露出させろと言いました。選挙の街宣車のように「日本人はシュークリームが好きだ」と連呼すれば覚えてくれるだろうと考えたわけですね。
だったら、このスローガンを大きく紙に書いて、部屋中にベタベタ貼ればいい。革命のポスターみたいにね(笑)。
小説でも映画でもそうだけど、「この作品のテーマはこれです」「私はこれを言いたかったんです」みたいなことを作品の中で連呼するなんてあり得ないでしょう? そんなことを自分で口に出したらそれでおしまい。
芸術性の高いジャンルに限った話ではありませんよ。企業のプレゼンテーションだって同じです。「○○な社会の実現を目指す。それが当社の理念です」みたいな話をいくら聞かされたところで、所詮は他人事だから興味は涌かないし、まして連呼されたら耳を塞ぎたくなるだけ。
そもそも「ポイントはコレだ」「ソレを正しく理解しろ」「しっかり覚えて帰れ」というのは参考書の構造です。教材ビデオならそれでいい。だけど、繰り返し言っているように、メディア空間の仕事は教材ビデオをつくることじゃありません。
それで済む話ならはじめからビデオテープを配ったらいいんです。パンフレットやポスターでやれることならそうした方がいいし、ネットで語れるなら是非そうすべき。だって、その方がはるかに安くて効率的ですからね。
空間の仕事は2行のメッセージ≠伝えることじゃないんですよ。第1部で言ったように、単に「見た」「知った」という状態から、自分との関係において「考える」レベルに引き上げること。
見終わった観客が、「ああ、日本人はきっとシュークリームが好きなんだろうなぁ。その気持ち、ちょっとわかるような気がするな。オレ、日本人じゃないけど、こんどシュークリーム食べてみようかなー」と考えはじめてくれるきっかけをつくることなんです。