これを見てください。2006年10月から翌年1月にかけて、岡本太郎記念館で行った企画展の写真です。
ものすごい光景でしょう?(笑) 『太郎のなかの見知らぬ太郎へ』と題されたこの展示を企画したのは美術評論界のトップランナー・椹木野衣。彼は、記念館にある平面作品をカードにして2階から庭にバラ撒き、それを集めてトランプのように切った。そのうえで、カードの順に応じて作品を展示室の壁にすき間なく埋めていったんです。カードが天地逆になっていたら作品もひっくり返して取り付ける(笑)。原色の壁面の色を決めたのも、彼ではなくアミダです(笑)。
すべてを偶然が決めているわけで、企画者の意図や作品のメッセージ性を極限まで排除しようとしている。常識的な展覧会の構造を木っ端微塵にしてみせたのは、従来の方法論では見出すことのできないなにかを発見するため。図録型の展覧会形式を破壊することで生まれる「はじめての光景」「はじめての空間」「はじめての体験」を岡本太郎再発見の手掛かりにしようとしたわけです。これはインパクトがありました。
もはやくどくどと説明するまでもないでしょう。これこそ完パケ思想の180度逆であり、空間というメディアでなければ為し得ないこと。これと同じことができるメディアはほかにありません。
こんな展覧会は後にも先にもこれだけだから、もちろん話題になりました。取り上げられた新聞記事のタイトルは、「岡本太郎の再発見めざす常識&「す美術展を見て」「先入観排除、型破りの岡本太郎展」など。
まあ、これはあまりに極端な例だから直接の参考にはならないと思うけど、完パケではない展示とはなにか、完パケから離れることでなにができるのか、を考えるうえでとても重要なヒントをくれる試みだと思います。
それにしても、この空間は本当に強烈でした。掛け値なしで「はじめての体験」だった。言葉や写真で伝えられないのが残念です。