小さなこどもにはじめてサッカーを教えるときと同じなんですよ。
生まれてはじめてサッカーボールに触るこどもに、いきなり歴史の講釈やオフサイドの解説からはじめる馬鹿はいないでしょう?
まずはボールに触らせて、「さあ、蹴ってごらん? 簡単だ。大丈夫。できるよ」と言って蹴らせる。そして「ほら、ちゃんと蹴れたじゃないか。うまい、うまい。もう一回やってごらん」「あっ、ゴールに入った! すごいじゃないか!」「な? サッカーって、面白いだろ?」……。
サッカーは楽しい。サッカーは他人事じゃない。サッカーは君のもの。
これを身体感覚でわからせる。知識として啓蒙するのではなく、実感として自分で掴ませる。やるべきことはこれです。そうやってサッカーの世界への扉の前に立ったこどもの背中を押す。
先ほど、教えるのではなく触発する、自ら発見する舞台をつくる、と言ったのはこういうことなんです。
面白がって情報と触れ合っているうちに、「あっ、わかった!」という瞬間が訪れる。それはすなわち自らなにかを掴み取ったということ。そしてその瞬間に、その情報は自分自身の問題として行動や選択の対象になっている。
空間メディアのやるべきことはこれです。これこそが期待されている。
どうすればこの状況に少しでも近づくことができるのか、ぼくはいつも考えています。
ではここでもうひとつ事例を見てください。紹介するのは、2006年の2月〜3月にタイのバンコクで開催された展覧会形式のイベントです。日本のモノづくり=プロダクトデザインをテーマにしたもので、バンコクの六本木ヒルズと言われる「Emporium」内にオープンした「Thailand Creative and Design Center(TCDC)」という国営のデザイン振興拠点で行われました。