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コラム

空間メディア入門

2-12異常なリピート率

2012.07.30

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 来館者が自らの意志で、あるいは無意識のうちに、情報を選び取り、自分なりの物語やイメージを組み立てていく、という構造ですから、観客は否応なく展示に反応せざるを得なくなります。しかも多様な情報が多様なままマルチイメージ≠ナ展開しているので、見るたびに違う表情を見せてくれるし、そのたびに新しい発見を提供してくれる。
 もちろん、そこには「これが日本人だ」といったステレオタイプもなければ、「日本の主張」を口角泡を飛ばして語ることもありません。
 情報の送り手が一方的に演説する従来の構造を変えたかったし、目の前のプレゼンテーションに対して受け手の側が心理的に応答する関係性をつくりたい。それが発想の出発点でした。
 教科書のごとき一義的な理解を強要しない展示。「ボタンを押す」のではなく観客が心理的に反応できる展示。観客が自らの感性で情報と触れ合える展示……。
 そのために「最後まで語り尽くすのはやめよう」と思いました。半分は観客の手に委ねる。そうすれば対話の余地が生まれると考えたわけです。
 幸い日本館はトップクラスの人気館になり、170万人の来館者を迎えることができました。現地の新聞が発表した人気パビリオン・ランキングで筆頭に挙げられたり、ポルトガル政府から要請されて、展示物の一部を現地に寄贈したりもしました。
 しかし、なによりぼくが嬉しかったのは、リピート客が異常なくらい多かったこと。普通、博覧会で同じパビリオンに二度行くことはありません。誰だって、ひとつでも多くのパビリオンを見たいですからね。 
 でもこの日本館では2回目以上の人が23パーセントに上っていたんです。前代未聞の数字です。もう一度見るために、彼らは炎天下に2時間も並んでくれたわけです。
 演説を聞くだけなら一回で十分です。この数字はコンセプトが間違っていなかった証だと思ってます。

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