もちろん、「つくりもの」での勝負を強いられる展示という形式で「対話」するのは至難の業です。少なくともいままでは、技術的・経済合理的にほとんどリアリティがありませんでした。
しかし、急速に進むデジタル技術やIT技術の力を借りて、文字通り対話する展示≠ェ実現する日はそう遠くないでしょうし、ぼく自身も研究しています。
もっとも、肝心なポイントは対話した実感≠ェ得られるかどうかであって、情報が両者の間を物理的に行き来すること自体が目的ではないし、実際にそうなることだけが唯一の方法とも限りません。「一方的に送達される情報を受け取るだけ」という構図から逃れ、受け手が能動的に情報とかかわることができれば、事情はかなり変わります。
「送り出される情報が観客とのやり取りに応じてその場で生成されていく」ところまで行くのは難しいとしても、なんらかの形で心理的な応答関係≠ェ築ける展示なら従来の技術でも可能性はあります。
そのひとつの試みとして、ぼくは1998年に開催されたリスボン国際博の日本館をつくりました。そのなかのひとつの展示ゾーンがこれです。
「フロンティアとしての海」をテーマにしたこのゾーンでは、日本人の暮らしを育む自然を縦糸に、そこを舞台に開発が進む先進技術を横糸にしながら、海洋技術に向う日本人の感性を「音と光の映像詩」として表現しました。
展示室全体をスクリーンに変える造形群、奥行きをもった二面の異なる映像を同時に映し出すダブルスクリーン、100台のスライドプロジェクター、10台のビデオプロジェクター、100台の演出照明、マルチチャンネルの立体音響……を駆使した特殊な映像環境が来館者を包み込んでいます。
わずか13分の作品の中に、4000カットの静止画と90分の動画が凝縮されています。すべてを見ることなどはじめから不可能だから、観客は「なにを見るか」を自ら選び取ることを迫られる。テレビのように受け身ではいられないわけですね。