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コラム

空間メディア入門

2-9接触数と接触密度はトレードオフの関係

2012.07.19

 マスメディアもインターネットも、自分以外の何人が同じ情報に触れようとも、情報との関係性や接触密度はまったく影響を受けません。同じ雑誌を何万人が読んでいようと情報内容はなにも変わらない。
 しかしライブコミュニケーションではそうはいきません。接触数と接触密度がトレードオフの関係にあるので、あちらを立てればこちらが立たず、という状況から逃れることができないからです。東京ドームで5万人を相手にするのに路上ライブと同じ距離感にしたいと言っても、それは無理というもの。
 いうまでもなくこのジレンマは、空間コミュニケーションのもつ双方向性に由来しています。情報の送り手と受け手が互いに顔が見えているから反応しあう。そこに空気が生まれ、双方向の情報交換がはじまる。ライブコミュニケーションはジレンマから逃れられない代わりに、インタラクティビティ(ルビ:双方向性)が保証されているわけです。
 しかし、空間メディアにあってひとつだけインタラクティビティに弱点を抱えるコミュニケーション形式がある。それが展示です。
 ライブパフォーマンスは1回限りだけれど、展示は一度つくってしまえば壊れるまで同じ状態・同じ効果をキープできる。情報が古くなることはあっても、疲れたといって休んだり、気分が乗らないからと半分で止めたりすることはありません(笑)。
 同一・同質の情報内容をいつまでも安定供給し続けられるという特性は、大量の観客に情報を伝えるうえでたいへん都合がいい。だから、大量動員を図ろうとするイベントの多くは展示という形式を採用します。その典型が博覧会です。世界最大のライブイベントのひとつにワールドカップがありますが、実際にスタジアムで観戦できる人の数は予選を含めてせいぜい3〜400万人。これは万博なら一パビリオンで達成できる数字です。
 しかし、展示は「大量かつ効率的に情報伝達できる」というこの特性の裏返しとしてインタラクティビティが弱い。インタラクティブとは「観客の存在や反応に応えて状況が刻々と変化すること」ですが、ライブと違って展示にはこれがない。皮肉なことに、情報内容が一定していて変わらないというメリットこそが最大の弱点になっているわけですね。

 

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