空間メディアがもつ第二の特性は、“顔が見える”こと。face to face のコミュニケーションができるメディアだ、ということですね。
空間というメディアでは、情報の送り手と受け手が同じ場所に共在していて、その関係は基本的にフラットです。双方とも相手の顔が見えているし、声も届く。はじめから互いに反応せざるを得ない状況に置かれているわけですね。だから必然的に“交流”がはじまる。
余談ですが、歴史的な成功者として富と名声を手に入れたポール・マッカートニーは、いまもライブ活動を続けています。以前その理由を訊かれて、即座にこう答えたそうです。
「Pay offがあるから」。
Pay offとは報酬のことですが、彼が言っているのはギャラの話ではありません。歓声、笑顔、拍手、大合唱、手拍子……。観客からのダイレクトな反応を肌で感じてはじめて、音楽をやっていて報われた気持ちになる、と語ったらしいんですね。それが自分にとって最大の報酬なんだと。
いうまでもありませんが、互いの反応を肌で感じることができるというこの特性を、マスメディアはもっていません。放送がデジタルになってテレビやラジオも双方向コミュニケーションに向けた試みをはじめてはいるものの、まだヨチヨチ歩きをはじめたばかり。
一方、“リアルタイムのInteraction”が売り物のインターネットは確かにインタラクティブだけど、ぼくたちはディスプレイという「窓」に映る情報を「外から見る」だけで、窓の中に送り手と受け手が「ともに居る」わけではありません。
つまり、インターネットは「窓越しのコミュニケーション」を越えられない。情報とそれを見ている自分との間には厳然と垣根があって、互いに窓の向こう側には行くことはできません。
体感する回路が使えないから、自ずから「頭」を介したやりとりになる。やっぱり空間とは違うんですね。
一番の違いはなにか。それは「空気」だとぼくは考えています。