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コラム

空間メディア入門

1-24 美術館には「時間」がない

2012.6.04

 「なぜ時間が止まっているのだろう?」という疑問もありました。
 美術館では、音も、光も、情景も、すべてが止まったまま動きません。
 たとえば、優れた彫刻作品は、野外にあるときは太陽光の動きに呼応して豊かに表情を変えるのに、美術館に入れられた途端にフリーズさせられてしまいます。スポットライトは当たっているけれど、その光は固定されたまま動かない。だから作品は表情を変えることがない。まるでPause(一時停止)しているみたいだと思いませんか?
 美術館の展示室には「空間の感覚」がないのと同様に、「時間の感覚」もないんですね。
 当然であって、空間とは時間を含む概念ですから、空間感覚がなければ、時間感覚も生まれない。
 空間をより魅力的・効果的に表現するために「時間軸に沿って状況を人為的に変化させること」を、ぼくたちは「演出」と呼んでいますが、たいていの美術館にはこの意味での演出はありません。というか、はっきり言えば、演出を否定している。実際、美術館の学芸員に演出という言葉を使うと、多くの場合、それだけで彼らは拒否反応を示します。
 時間の感覚をもたないことで、美術館は多くの可能性を失っているのではないか。ぼくはそう考えていました。光がうつろい影がゆれたり、空間全体がおだやかに表情を変えていったり……。そうなればきっと楽しいし、作品もいつもと違った表情を見せてくれるはず。そう考えていたわけですね。                    
 美術館が「ある瞬間を切り取った一時停止の状態」を指向する理由のひとつは、おそらく最良の観賞環境を選び、それを観客に提供しようとしているからでしょう。その作品を観るとき一番いい光の当たり方はコレ、という状態を学芸員が決めてセットする。
 つまりそれは、作品の「観賞のしかた」まで含めて情報をパッケージにして送り出しているということです。言い換えれば、美術館は「結論を伝える場所」になっている。
 ぼくたちは、あらかじめセットされた結論を受け取っているだけで、発見のプロセスに参加することはできません。

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