川崎市岡本太郎美術館の常設展示空間をプロデュースすることになったとき、ぼくはシズルに満ちた美術館をつくりたいと思いました。
なにしろ太郎さんの美術館なのだから、無色無臭である必要はない。そんなものをつくったら太郎さんに叱られます(笑)。空気中に高濃度の太郎ガスが充満しているような美術館をつくりたいと考えたわけですね(笑)。
コピーできるようなお手本はないけれど、従来の美術館に対する違和感が手掛かりになるだろうとの予感がありました。
この美術館は、岡本作品のほぼすべてが収蔵される個人美術館です。いわば岡本芸術の総本山。太郎作品のダイナミズムをしっかりと伝えるべきことはもちろんですが、それと同じくらい大切なのは、人間・岡本太郎の息吹を生々しく感じてもらうこと。この二つの意味で、岡本太郎とヴィヴィッドに触れ合える環境が期待されていると考えました。
発想の出発点は、
・図録のような美術館から、体感する美術館へ。
・時間の止まった美術館から、時が流れる美術館へ。
空間というメディアがもっている性能をうまく引き出して、「空間体験としての芸術鑑賞」の可能性を探りたい。「生々しい空間」と「躍動する時間」を備えた展示空間をつくりたい。そう考えたわけです。
こうして岡本太郎美術館は生まれました。この真っ赤な部屋は常設展示室への導入空間です。入った途端にいきなりこの暑苦しい空間が待っているわけです(笑)。ここは、これからはじまる「太郎体験」に向けて精神を集中する場所。非日常のTARO WORLDに足を踏み入れるうえでの意識の切り替えを促す空間です。
これだけでも普通の美術館とはずいぶん様子が違うことがおわかりいただけるのではないかと思います。