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コラム

空間メディア入門

1-7 メディアには得手不得手がある

2012.4.2

 メディアにはそれぞれ固有の特性があります。
 たとえば、情報を、瞬時に、広範囲に伝達したいなら、いうまでもなくマスメディアが最適です。テレビの視聴時間が短くなった、若者が新聞を読まない、雑誌の廃刊が続いている、などと言われていますが、依然としてマスメディアの“伝播力”は圧倒的で、イベントなど足下にも及びません。
 実際、新製品のビールを宣伝するとき、テレビや新聞で広告を打てば、一度に何百万人というボリュームに告知することができます。
 これに対して、店先や街角で試供品を配ったり試飲させたりする「サンプリング」ではせいぜい何百人。4ケタも5ケタも違う。ひとりの女の子が配れる数なんて高が知れていますからね。この種のプロモーションをやろうとすれば、キャンペーンガールを何人も雇い、何日もかけて準備を整え、地道に一杯ずつ配っていかなければなりません。
 空間で情報を送り出すという行為は、ものすごく手間がかかるのに、数が稼げない。正直に言いますが、メチャクチャ効率が悪いんですよ(笑)。これは空間メディアの宿命です。
 でもサンプリングはなくならない。マス広告とサンプリングは共存しています。いや、それどころか補完しあっている。イベントにはイベントだけがもつ機能があるからで、それを考えていくのがこの講義の目的なんですね。
 一方、体系的な知識を正確に伝えたいなら紙媒体を選ぶべきです。その典型が教科書。教科書は、詳細な情報を正確に伝えるだけでなく、知識を体系として理解させるための構造を備えています。
 これと同じ役割を空間に期待しても無理。「資本論」を1ページ目から読ませるようなことは考えるだけ無駄です。はじめから空間の仕事ではない。ところが、なにも考えずにこれをやって失敗しているイベントが実はけっこうあるんですよ。

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