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コラム

空間メディア入門

1-6 提供するのは「空間体験」

2012.3.29

 ところで、繰り返し「空間というメディアは…」と言ってきましたが、空間がメディアであるとは、そもそもどういうことなのでしょう?
 空間を構成する物理的な要素、たとえば素材・光・色・音などを単にコーディネートすることではない、ということはもうおわかりですね。それはオーナーの好みを表出するある種の表現ではあっても、特定の文脈を伴った情報を送り出しているわけではないからです。
 「この家の人たちはロハス志向らしい」とか「ペットとの生活を最優先にしているようだ」といった程度のことはわかるけれど、意志を持ったメッセージをアクティブに発信しているわけではないし、そもそも来客にメッセージを送るためにつくられた空間ではない。
 メディアとしての空間とは、あらかじめ準備された文脈を伝えるために設えられた空間のことです。空間そのものが情報を伝える機能を果たす。一言でいえば、「空間で語る」わけですね。    
 当たり前じゃないか、と思われるかもしれないけれど、「空間で語る」というのはそう簡単なことではありません。たとえば、先に例としてあげた「パネルが並ぶ展示会ブース」では、説明しているのはパネルであって、空間そのものではありません。
 パネルに書かれている情報を紙に印刷して配っても、あるいはウェッブサイトにアップしても受け取る情報内容が変わらないなら、結局、空間はなんの仕事もしていないわけで、受け手がわざわざその空間に足を運ぶ意味はない。
 そうでしょう?
 要するに、情報を「空間体験」として提供できるかどうかが問題なんですね。これができれば空間は大きな威力を発揮する。他のメディアにはない性能だからです。
 逆にいえば、空間体験が提供できないなら、その空間にはメディアとしての存在意義はない。実にシンプルな話なんですよ。

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