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コラム

空間メディア入門

1-4 バーチャルはリアルへのトリガー

2012.3.22

 実際、たとえば、ネット・コミュニケーションが当たり前になったことで、同窓会が増えているそうです。電話や往復ハガキで連絡を取りあっていた頃と比べて情報連絡のハードルが劇的に下がった結果、気軽に企画できるようになったからですが、それだけではありません。
 メールで連絡を取りあって近況が少しわかってきたりするうちに、やっぱり直接会いたくなる。「全員が揃わなくてもいいから、都合がつく者だけでもとりあえず会わないか?」という話になるわけですね。
 見知らぬ街のことを知れば知るほど実際に行ってみたくなるのと同じで、バーチャルな情報の集積がリアルな体験への欲求を掻き立てる。いわばトリガーになるわけです。
 要するに、それぞれのメディアには固有の役割があるのであって、簡単に取って代われるようなものではないし、自分にしかない強みを活かせばより強くなれる。逆にいえば、他のメディアの方が明らかに合理的、という役柄にしがみついていたら本当に退場させられてしまうということです。
 ぼくは「ネット社会に展示会など時代遅れ」とは毛頭思わないけれど、パンフレットを拡大コピーしたようなパネルが並ぶ展示ブースは確かに時代遅れで意味がないと思う。この種の牧歌的な展示形式はまもなく絶滅せざるを得ないでしょう。
 メディアをめぐっていま起きているのは、再構築(Re-Structuring)に伴う調整です。デジタル技術とインターネットという革命的なメディアの登場で、既存メディアは自らの機能と役割を問い直さざるを得なくなった。なにも考えずに従来のフォーマットに乗っているだけでは済まなくなったわけですね。
 空間メディアもむろん例外ではありません。パネル展示で安穏としていたら土俵の上から落とされる。
 空間メディアだけが為し得ることとはなにか、どんな特性がそれを支えているのか、どうすればその特性を引き出せるのか……。
 つくり手はそれを考えなければならないわけです。

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