ジャングルクルーズはまぎれもなく「空間」で起こる「ライブな出来事」だけど、構造としては明らかに完パケです。少なくともそれを目指してつくられている。
出来事は船の進行に沿って順番に、まさしくリニアにつながっていくし、キャストの指示に従っていれば、シナリオ通りにちゃんと動物たちが驚かしてくれる。機械仕掛けだから再現率はほぼ100%で、構造としてはビデオの繰り返し再生と同じです。
体験をできる限り完全なパッケージにしたい、との思想でつくられているからこうなるわけで、すべての観客に同一・同質のサービスを提供することを至上命題と考えていることは明らかです。だから生身のカバを諦めたのだし、可能な限り演出の「揺れ」をなくすことに全力を尽くす。
この考えを根底で支えているのは、大量生産・安定供給の思想です。場内の飲食をセントラルキッチンで供給しているのも同じ理由。ディズニーランドは、「すべての人に同じサービスを」という「マスの思想」を高い次元で結実させているわけです。
特筆すべきは完パケなのにリピーターが多いこと。ぼくたちは同じ映画を何度も観るようなことをしているわけですね。何回行ってもカバは同じ動きしかしてくれないのに(笑)。
理由は大きく三つあると思います。第一に巨大であること。個々のアトラクションは完パケだけど、それらを繋いだ「ディズニーランド体験」全体としてはいろいろなバリエーションがつくれる。二つ目は体験のクオリティが圧倒的に高いこと。映画でも名作なら何度見てもいい。三つ目が―これが最大の要因だと思いますが―、観客側が情報を背負って来ること。体験情報の半分は観客が自分で持ち込んでくる。
誰もがこどもの頃からミッキーやドナルドを知っているし、ディズニーがストックしてきた数々のストーリーに親しんでいます。キャラクターを見るだけで、こどもの頃から溜め込んださまざまな記憶とひとりでにつながる。キャラクターが「物語」を起動させるスイッチになっている。ディズニーランドはいわば最後の1ページなんですね。
もちろんディズニーランドは例外中の例外だから、真似しようなんて考えない方がいい。怪我するだけです(笑)。ただ、そんなディズニーランドでさえ、最近ではライブの比重を高めつつある。ライブショーこそエンタメの本命と考えはじめているようにも見えます。