「モノづくりの遺伝子」とはなにか。
たとえば、日本人は昔から小さくて精緻なものが好きですよね。これ、理屈じゃありません。だから、頼まれたわけでもないのに、新しいモノが登場するとその瞬間から小型化・軽量化に向けた取組みをはじめます(笑)。しかも決して機能や性能を犠牲にすることはない。むしろ小さくしながら品質を高めようとします。この結果、モノがどんどん小さく高性能に進化していく。
こうした好みが日本のお家芸といわれる特徴をつくり出しているわけですね。まさに日本人のデザインマインドの底流にある遺伝子です。
「小さく、薄く、軽くする」「機能を集める」「携帯化、身体化する」「自然を映す」「素材を活かす」…。試行錯誤の末に「15の遺伝子」をリストアップしました。
だけど、それをくどくどと言葉で説明してもしょうがない。ぼくの仕事は論文を書くことではありませんからね。日本の「モノづくりの遺伝子」の存在とその意味を、誰もが一瞬で実感≠ナきなければ体験空間としては失格です。
そこで、ひとつの遺伝子について時代の異なる3つのモノを併置することにしました。一つ目は江戸時代に手作業でつくられたモノ。二つ目は戦後に産業デザインの概念が本格的に普及しはじめた50年代から80年代につくられたモノ。最後は21世紀に入ってからつくられた最新のモノ。ひとつの遺伝子を説明し、それが確かに遺伝子であることを証明するために、この3つが同時に目に入るように並べました。
たとえば、「小さく、薄く、軽くする」では、「印籠」「小型トランジスタラジオ(1960)」「薄型高性能デジタルカメラ(2004)」が、「携帯化、身体化する」では、「矢立て」「初代ウォークマン(1979)」「最新型たまごっち(2004)」が一列に並んでいます。
まさにホップ、ステップ、ジャンプ。その光景を一瞥しただけで、職人の時代から現代に至るまで、日本デザインの底流には固有の美意識と作法が連綿と続いていることが、理屈ではなく直感でわかるだろうと考えました。
文字通り「一目瞭然」を目指したわけです。