本格的な「演出」も持ち込みました。その典型がこの「彫刻の大地」。先ほどお話した、彫刻作品が群となって観客を包み込むゾーンです。
ここは作品を出演者に見立てた円形劇場をイメージしてつくりました。中心には主役を張る『樹人』という作品を置き、周りを脇役たちが固めています。
天井のバトンにはさまざまな演出照明や映像機材が吊られていて、空間全体をカバーする音響装置も配備しています。演出機材はまさに舞台のグレードで、普通の美術館には場違いなものばかり。これらを使って空間全体を演出しているわけです。
具体的には、第一楽章から第四楽章までの40分のスコアに沿って、音・光・映像がゆっくりと移り変わっていきます。
さわやかな朝のようなシーンもあれば、闇の中に作品だけが浮かび上がるときもある。太陽が沈んでいくようなゆっくりとしたスピードで演出照明の配光や色がうつろい、それに応えて作品が刻々とその表情を変えていく。途中からは映像も割り込んでくるし、オリジナルのSE(サウンドエフェクト)も絡んでくる。
そしてついに作品を色で染めることまでやってしまいました。あるシーンになると、夕焼けに照らされたように彫刻が赤く染まるんです。さすがにぼくもそんなの見たことない。まさかそこまでやるとは思わなかったけど、照明ディレクターの武石正宣がほんとうにやりやがったんです(笑)。でも、これ、すごくいいんですよ。
変化はとてもゆっくりだけど、しばらく見ていれば表情が変わっていくのがわかります。でも40分そこに立っている人はまずいない。ということは、来るたびに違うシーンにであえるわけです。そんな美術館、ないでしょう?
肝心なのは、観客はこの状況を客席から観ているわけではなくて、自分も舞台の上に乗っているということ。“役者たち”と同じ空間に居て、同じように照明にも当たっている。自分自身がその場の「空気」に参加しているわけです。それはすなわち、空間の体験であり、展示の体感です。