ところで、いま「空間」という言葉が何回も出てきましたが、もちろん「床、壁、天井に囲われた場所」といったような物理的な意味で使っているわけではありません。イメージしているのは「特定の情報をアクティブに発信する空間」です。
もっとも、どんな空間も情報を内蔵しています。たとえば建築は、それを設計した建築家の設計思想やデザイン志向が織り込まれていますし、インテリアも、住宅であれ店舗であれ、オーナーの趣味や美意識が反映しています。
家に招かれたとき、インテリアを見ただけでその家がどんな価値観の持ち主なのかがわかりますよね。この意味でいえば、空間は例外なく情報を内蔵し、発信している。
しかし、この講義が扱おうとする空間は、それとは少し意味が違います。一言でいえば「コミュニケーションを実現させようとの意志をもつ者が、その目的を達成するために戦術として用意する空間」、すなわち「コミュニケーションをミッションとして目的的につくられる空間」です。この種の特別な空間を、ぼくは「空間メディア」と呼んでいるわけです。
別に難しい話をしているわけではありません。ミュージアム、ショールーム、エギジビション、テーマパーク、ライブイベント……、これらはみんな空間メディアです。広い意味ではある種のショップやレストランなどを入れてもいいでしょう。
空間でコミュニケーションを行う際の基本原理とは?
どうすれば、リアルな空間を使いこなせる?
それをこれからお話していきます。メディアとしての空間をつくったり、活用したりする人が知っておかなければならない基本中の基本です。
なお、この講義では、便宜上、「空間というメディアを使って生み出される時空間=出来事」を総称して「イベント」と呼ぶことにします。だから、企業のショールームも、ミュージアムの展示空間も、すべてイベントという言葉で括ります。このワードを見たら、リアルな場として立ち現れた情報空間のことだと考えてください。