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days of delight

Days of Delight

Compilation Album ー 共 振 ー

2019.6.19 発売
疾走

《 “熱い時代”を語り継ぐ 》

私が日本のジャズに着眼しはじめたのは90年代中頃である。レコード店のジャズ専門フロアで働いていた頃だ。この時代、日本のジャズ(50’S〜80’S)はジャズ評論家やリスナーから馬鹿にされていた。60年代〜70年代の某ジャズ専門誌の新譜レビューでは、モダン・ジャズ・ジャイアンツの二番煎じ、テクニック不足などと頻繁に揶揄されており、そのレッテルを貼られたまま時代が経過してしまったのだから仕方がない。今思えば、毛嫌いなどはしていないまでも私もそれに惑わされていた1人だったのかもしれない。
ショップに来店するお客様の趣味は多種多様だ。新譜CDのみ買う人、中古LP(CD)のみ買う人、数万〜数十万のヴィンテージ・アナログ盤を買う人など、細かく書いていたらキリがないが、その中にごく少数派が存在した。日本のジャズLPのみを血眼になって探し求めている方が2,3名いたのだ。その数名の人達を観察していくうちに、やがて私も「どんな内容なのだろう」と興味を持つようになっていった。そしてついにその好奇心が抑えられなくなり、試聴をかねて店頭BGMに日本のジャズLPに針を落とした。これまで聴いてきたアメリカの名盤や最新録音の新譜とは全く異なる空気感。特にその時に聴いた、「佐藤允彦/パラジウム」と映画「ヘアピン・サーカス」のサントラ盤(音楽:菊地雅章セクステット)には度肝を抜かれた。これまで味わったことのない緊迫感と迸る躍動感、そして劇的な疾走感。ショックを受けた。
この日を境に私は日本人のジャズにのめり込んだ。聴けば聴くほど刺激的な作品に出会っていったのは言うまでもない。そしていつしか使命感のようなものが沸いてきた。「このような素晴らしい作品達を広く多くの音楽ファンに聴いてもらいたい」と。その後、約10年間の研究を重ね、2005年にレーベルを立ち上げ、日本のジャズ作品の復刻リリースをはじめた。また2009年には、日本のジャズ作品を気軽に楽しんでもらえるテキストのようなものがあればという思いから、「和ジャズ・ディスク・ガイド」を発刊した。この熱き思いは今日に至るまで燃え尽きてはいない。今後もTHINK!やCRAFTMANといったレーベルで発表していく次第だ。
昨年(2018年)、本レーベル・プロデューサーである平野暁臣と出会った。平野さんは70年代の日本のジャズを愛する人物である。戦後20年間続いた高度経済成長期ともに、我が国は芸術や音楽といった文化面も固有の進化を遂げた。このDays of Delightレーベルのロゴ・デザインの作者である岡本太郎が唯一無二の個性を発揮して世界的な芸術家になったように、本来ならば60年代後半から70年代の日本のジャズはリアルタイムで世界に認められるべきであったが、一部のアーティストを除いて残念ながらそうはならなかった。だが悲観することはない。熱い時代の(60’S後半〜70’S)の日本のジャズは、復刻リリースが盛んになった2005年以降、我が国のジャズ・リスナーのみならず、海外のDJやジャズ・コレクターにまで注目されるようになった。長い年月はかかったが、熱い時代の日本のジャズは世界に認められたのである。
平野さんと私の現在の使命は、10代20代の若い世代に対しての日本のジャズの啓蒙である。本作に収録されている日本コロムビア原盤の8曲を聴いてもらうだけでも、それぞれの感性で様々な気づきがあるだろう。
こうした行動(リリース)を継続していくことで、我が国が誇る「時間芸術」が永遠に語り継がれていくようになれば本望である。

 

 

塙 耕記(CRAFTMAN RECORDS)

 

 

1.  For my little bird/向井滋春
  大学を中退して1971年に上京し、気鋭のジャズマンたちと切磋琢磨を重ねていた向井滋春が25歳で吹き込んだ初リーダー作。レギュラークインテットによる緊張感のあるサウンドは個性的で美しい。本作が発表された1975年、向井ははやくもスイングジャーナル誌の人気投票トロンボーン部門の1位に輝き、福村博とともに次代を担うトロンボニストとしての地位を不動のものとする。70年代後半からは活動の場をフュージョンシーンに移すも、やがてストレートジャズに回帰。いまもシーンの先頭を走るトロンボニストだ。

 

2. Shrimp Dance/鈴木弘
  1960年代後半、渡辺貞夫と同い年の鈴木弘は、渡辺がそうであったように圧倒的な実力と人気で日本のジャズシーンを席巻していた。1971年3月、その鈴木がラスベガスに移住する。本作は、4年ぶりに一時帰国した鈴木を核に、鈴木の渡米直前までともに活動していた「フリーダム・ユニティ」のメンバーが再集結したもの。村岡健、鈴木宏昌、稲葉国光ら日野皓正の第1次黄金期を支えた実力派を従えた鈴木はじつにクールだ。鈴木はいまもラスベガスで活躍している。

3. Breeze/稲垣次郎とソウル・メディア 
  1969年にソウル・メディアを結成してジャズロックを牽引していた稲垣次郎は、やがてファンク路線に踏み出す。本作が録音されたのは1974年8月。理屈抜きでカッコいい。「コルトレーンの出現によってジャズのページが塗り替えられ、何が何でもコルトレーンでなければ駄目という時期が過ぎようとしているとき、ファンキーなサウンドが現れるのは当然のこと」。当時のライナーノートに稲垣はそう記している。〈Three Blind Mice〉や〈East Wind〉が“ゴリゴリ系”の名盤を続々とリリースしていたとき、一方ではこうした動きも成果をあげていたのである。
 
4. Love More Train/日野皓正
  1969年に発表した『ハイノロジー』で日本ジャズ界に旋風を巻き起こし、一躍時代の寵児となった日野皓正。ジャズ界を軽々と超え、カルチャーシーンのド真ん中でファッションリーダーに駆けあがった日野が送り出したのが本作だ。コルトレーンライクなモーダルな進行は時代の気分を体現するものだが、村岡、鈴木、稲葉、日野元彦によるタイトなサウンドは当時の日野クインテットならではのもの。1970年の時点で日野が独自の個性を獲得していたことがわかる。この録音を終えると日野は一時渡米。75年にはNYに移住する。

 

5. On The Horizon/渡辺香津美

  日本ジャズ界が誇るスーパーギタリスト渡辺香津美が21歳で録音した3作目のリーダーアルバム。ゲストに迎えた土岐英史と向井滋春が奔放に駆け回る若々しいサウンドが、日本のジャズ界に満ちていた自由闊達な空気を伝えてくれる。独特のニュアンスをもつ渡辺のギターもエキサイティングだ。音から感じるのはまもなくシーンを席巻するフュージョンの気配である。じっさい渡辺は2年後には坂本龍一らを迎えた『Olive’s Step』を発表、1979年にはYMOのワールドツアーに参加し、スーパーバンド『KYLYN』を結成する。

 

6. Babylonia Wind/杉本喜代志
  1970年代の日野皓正サウンドを支えた杉本喜代志は、渡辺香津美とともに当時最も高く評価されていたギタリストだ。渡辺のようなスター性とは無縁だが、いわゆる通好みの腕利きで、いまもレアグルーヴ以降の世代が熱い視線を送っている。本作は1971年録音のリーダー3作目。市川秀男のエレクトリック・ピアノ、池田芳夫のベース、日野元彦のドラムが織りなす独特のグルーヴに乗って展開する杉本のギターは、ロックからフリージャズまであらゆる音楽要素を包含しているかのようだ。

 

7. Up into the Sky/板橋文夫
  国立音大在学中からジャズクラブで演奏していた板橋文夫は、1971年夏に渡辺貞夫グループのメンバーとなってプロデビューを果たす。73年に峰厚介、74年には日野皓正に迎えられ、数々の名演を残してきた板橋が1979年に録音した3枚目のリーダーアルバムが本作だ。録音当時、板橋は30歳になったばかりだが、すでに百戦錬磨の貫禄がある。圧倒的なパワーを放射しながらも、曲想の美しさはけっして手放さない。板橋の真骨頂だ。

 

8. 渡良瀬/森山威男
  3枚にわたって1970年代の名演20曲を集めたDays of Delightコンピレーションシリーズのトリを飾るのは、1980年11月に録音された森山威男グループ。山下洋輔トリオの初代ドラマーとしてその名を轟かせた森山が、自身のバンドを結成してリリースした第3弾だ。バンドの要である板橋文夫の名曲『渡良瀬』を、国安良夫(ts)と松風紘一(fl)のアンサンブルで聞かせる。フュージョン全盛の時代にあって、うねるようにグルーヴする森山のサウンドは当時、多くのジャズファンを喜ばせた。

 

平 野 暁 臣
〈Days of Delight〉Founder/Producer

 

 

 

品番:DODC-0001
定価:¥2,500(+tax)

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